
1.はじめに
「もし自分が認知症になってしまったら…」
そんな不安を感じたことはありませんか?
実は、80代後半になると、約3人に1人が認知症になるといわれています。認知症に関する問題は、多くの人にとって現実的な将来の問題なのです。
認知症になると、「本人の意思を確認できない」という理由から、銀行口座が凍結状態になることがあります。
こうなると、たとえ本人のための医療費や介護費などの支払いであっても、家族が本人のお金を引き出せなくなってしまうのです。
こうした認知症によるトラブルに備える方法のひとつとして、最近では一部のメガバンクが「代理人予約サービス」の提供を始めています。
このサービスは、元気なうちに信頼できる人を「代理人」として銀行に登録しておくことで、将来もし認知症などになってしまっても、スムーズにお金の管理ができるようにする仕組みです。
「代理人予約サービス」自体は無料で利用できるため、あまりコストを掛けずに認知症対策をしたい場合に検討に値します。
この記事では、「代理人予約サービス」とは何か、そしてなぜ今注目されているのかを、はじめての方にもわかりやすくご紹介します。
2.認知症になると、銀行でこんな困りごとが…
認知症になり口座が凍結されると、たとえ家族であっても、本人の代わりに銀行の手続きをすることはできません。
口座凍結を解除するためには、裁判所へ申立し、成年後見人を選任しなければなりません。
こうなると――
- 介護施設の費用を払いたいのに、預金を引き出せない
- 入院中の医療費や生活費を用意したくても、定期預金を解約できない
といった深刻な支障が出てきます。
そしてこの場合、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらわなければ、口座の凍結は解除されません。
このように、認知症になり口座が凍結されると、家族の力だけでは解決できず、法定後見の申立てが必要となってきます。
しかし、法定後見の申立てをして成年後見人が選任されるまで時間がかかりますし、専門職後見人が就任した場合は後見人への報酬が被後見人が亡くなるまで続きます。
3.「代理人予約サービス」とは?
認知症になって口座が凍結されると、家族であっても手が出せなくなる――。
そんなトラブルを防ぐために、元気なうちに「将来の代理人」をあらかじめ登録しておくのが、「代理人予約サービス」です。
これは、本人がまだ判断能力のあるうちに、信頼できる家族などを代理人として銀行に届け出ておく仕組みです。
将来、本人が認知症などで判断能力を失ってしまった場合でも、登録された代理人が、本人に代わって銀行での手続きを行えるようになります。
おおまかな流れは以下のとおりです:
- 本人と代理人が一緒に、金融機関の窓口で代理人登録を行う
- 登録後も、本人が元気なうちは本人自身が引き続き取引を行う
- 将来、本人が認知症を発症した際には、金融機関に届け出て、代理人が取引を開始する
これまでこうした手続きを行うには成年後見制度を利用する必要がありましたが、代理人予約サービスはもっと手軽に備えることができる方法として注目されています。
現在、このサービスを提供しているのは一部のメガバンクに限られていますが、今後利用できる金融機関が広がっていくことが期待されています。
※ここで注意が必要なのは、従来からある「代理人届け」とは全く別のサービスであるという点です。
「代理人届け」は本人が元気な間だけ有効で、認知症などで判断能力を失った時点で効力を失い、銀行での手続きはできなくなります。
「代理人予約サービス」のサービス名は銀行ごとに異なりますので、認知症になっても代理人が取引できるかどうか、事前の確認が重要です。
4.「代理人予約サービス」と他制度との違い
ここで従来からある認知症対策と「代理人予約サービス」を比較してみましょう。

「代理人予約サービス」は無料で利用でき、手続きも難しくないため、他の制度と比べても簡単に始められる認知症対策となります。
一方で「代理人予約サービス」で対策できるのは、あくまでも対象の銀行取引のみが対象となります。
不動産をお持ちの場合やより広い範囲の支援を希望する場合には、任意後見契約や家族信託との組み合わせの検討が必要になってきます。
5.最後に ~安心の備えとして考えておきたいこと~
認知症になると、自分のお金であっても自由に使えなくなる可能性があります。
そんなときに備えて、信頼できる人を事前に代理人として登録しておく「代理人予約サービス」は、手軽に始められる認知症対策のひとつです。
銀行取引以外の対策には、任意後見契約や家族信託など他の制度の利用を検討するとよいでしょう。
当事務所では、こうした制度の選び方や手続きについてもご相談いただけます。
将来への備えとして、ぜひお気軽にお問い合わせください。