
成年後見制度の改正案が示された背景
現在、成年後見制度の見直し(改正案)が法制審議会で議論されています。
今後、成年後見制度の利用を検討している方や、ご家族を支援する立場の方にとっては、制度の方向性を知っておくことが重要です。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に支えるための重要な仕組みです。しかし近年、制度の運用を通じて、いくつかの課題も指摘されてきました。
たとえば、次のような点です。
- 利用の硬直性:利用を開始すると、本人の判断能力が回復しない限り原則としてやめることができないこと
- 自己決定権の制限:成年後見では包括的な代理権が付与されるため、本人の自己決定が広く制限される可能性があること
- 後見人の交代:本人の状況が変化しても、後見人等の交代が柔軟に行われにくいこと
- 任意後見の適正な開始:任意後見契約を締結していても、適切なタイミングで開始されず支援が始まらないケースがあること
こうした課題を踏まえ、制度の在り方そのものを見直す議論が進められています。
今回の改正案は、「あらかじめ決められた枠組みに当てはめる制度から、必要な支援を必要な範囲で組み合わせる制度への転換」と捉えることができます。
たとえるなら、コース料理のように最初から内容が決まっている仕組みから、必要なものを選び取るビュッフェ形式へと発想を転換するようなイメージです。
成年後見制度改正案の三つの柱
今回の改正案は論点が多岐にわたりますが、全体像を整理すると、大きく三つの柱に集約することができます。
① 三類型構造の見直し ― 補助型を基軸とする再編
現行制度では、「後見」「保佐」「補助」という三類型が設けられています。
それぞれの類型ごとに付与される権限の範囲が法律で規定されており、特に「後見」については、包括的な代理権および取消権が付与される仕組みとなっています。
一方、保佐や補助については、原則として特定の法律行為を対象として代理権や同意権が付与される構造です。
つまり、現行制度は「判断能力の程度」に応じて類型を選択し、その類型ごとに予定された権限の枠組みに従って制度が運用される仕組みといえます。
改正案では、この三類型を前提とする構造を見直し、「補助」を基軸とする制度へ再編する方向が示されています。
判断能力の程度で入口を固定するのではなく、補助型を基本としながら、必要な範囲で権限を設計する構造へと転換する発想です。
② 支援内容に応じた個別設計 ― 「ビュッフェ形式」
改正案では、代理権や同意権を類型ごとに一律に与えるのではなく、本人の同意や支援の必要性に応じて個別に設定する仕組みが検討されています。
あらかじめ決められた枠組みに当てはめるのではなく、必要な支援を一つひとつ選び取る、いわば「ビュッフェ形式」に近づけようとする考え方です。
ここでは、「本人の意思決定の尊重」が制度設計の中心に据えられています。
③ 判断能力を欠く常況にある者への対応 ― 特定補助人という枠組み
もっとも、判断能力を欠く常況にある方で、同意の意思表示ができない場合も想定されます。
改正案では、一本化した「補助」の枠組みの中で、そうしたケースにも対応できるよう、現行の成年後見人の包括的な代理権よりも狭い範囲の権限を付与する「特定補助人」の枠組みを設ける方向が示されています。
これは、従来の成年後見に近い位置づけではあるものの、包括的な権限付与を前提としない設計であり、「必要な支援を必要な範囲で」という考え方を維持しながら、同意が前提とならないケースにも対応しようとする整理といえます。
改正案の各論
ここまでに整理した三つの柱を前提に、具体的にどのような点が検討されているのかを見ていきます。
① 法定後見の開始・終了と期間のあり方
・開始の要件
改正案では、本人の意思決定の尊重が明確に示されています。
特に、本人の同意を原則とする考え方が提示されており、権限付与の場面でも本人の関与を重視する制度設計が検討されています。
もっとも、判断能力を欠く常況にある者で同意の意思表示ができない場合については、第2章で述べた特定補助人の枠組みで対応する方向が示されています。
・有期制の導入(終了の仕組み)
現行制度では、一度開始すると原則として継続し、終了は限定的です。
これに対し、改正案では、
- 一定期間ごとの見直し
- 保護の必要性がなくなった場合の終了
といった仕組みの導入が検討されています。
制度が「一度始めたら原則継続」という構造から、必要性に応じて見直す構造へと変わる可能性が示されています。
② 成年後見人等の選任・交代のあり方
現行制度では、後見人等の解任は「不正な行為」など限定的な事由に基づいて行われます。
改正案では、本人の利益のために特に必要がある場合には、より柔軟に交代できる仕組みとする方向が検討されています。
また、選任の場面においても、本人の意向をより重視する方向性が示されています。
③ 任意後見制度の改善
任意後見制度については、制度の実効性が課題とされてきました。
任意後見契約を締結していても、監督人選任の申立てがなされなければ制度は開始されません。
改正案では、任意後見監督人の申立権者の範囲の見直しが検討されています。
④ 職務内容と報酬
改正案では、後見人の職務として、
- 本人へ意思決定に必要な情報を提供すること
- 本人の意思を把握し尊重すること
をより明確に位置づける方向が示されています。
また、報酬の決定にあたり、後見人が行った事務の内容や意思決定支援の過程などを考慮要素として整理する案も示されています。
まとめ
今回公表された改正案の方向性を整理すると、主軸は次の三点に集約されます。
- 類型を「補助」に一本化すること
- 本人の意思を尊重し、必要な支援を必要な範囲で組み合わせる“ビュッフェ形式”への転換
- 判断能力を欠く常況にある者で同意の意思表示ができない者については、「特定補助人」という枠組みで対応すること
これまでの制度は、「補助」「保佐」「成年後見」という三類型を前提とし、それぞれの類型ごとに法律で定められた権限が付与される構造でした。その中でも、成年後見については包括的な代理権が認められる仕組みとなっています。
改正案では、三類型構造を前提とした従来の設計思想から転換し、
・本人の意思決定の尊重
・支援の必要性に応じた権限付与
・状況に応じた見直しの可能性
といった方向へ制度設計を見直そうとしています。制度の枠組みそのものを再構築しようとする動きといえるでしょう。
もっとも、現時点ではまだ検討段階にあります。具体的な条文や実務運用の詳細は、今後の立法過程で明らかになっていきます。
支援に携わる立場としては、制度の動向を正確に把握しつつ、現行制度のもとでも本人の意思決定を尊重した支援を積み重ねていくことが重要だと考えています。
今後の議論の行方を、引き続き注視していきたいと思います。
参考情報
法務省HP「法制審議会民法(成年後見等関係)部会第33回会議(令和8年1月27日開催)」
法務省資料「民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱案(案)(2)(説明付き)」
法務省資料「法定後見制度見直しの案の概要」

