遺言書は、個人が自分の死後における財産の分配や家族への想いを明確にするための大切な書類です。
主に相続に関する事項や財産の処分方法、身分に関することが記載され、法的効力を持つためには一定の要件を満たす必要があります。個人で作成する場合、遺言書作成の知識が足りずに遺言が無効となるリスクがあります。

この記事では、遺言書の種類や重要性、作成方法について解説し、家族を守るために知っておくべきポイントを紹介します。

遺言書作成のメリット

遺言書を作成しておくことで、相続発生後の手続きの簡略化や相続トラブルの防止等の効果が期待できます。

  • 相続手続きの簡略化:相続発生後に遺産分割協議をすることなく、すぐに遺言執行手続きに着手することができます。
  • 遺言者の意思の尊重:遺言書は、遺言者の意思を明確に伝える手段です。遺言者の希望どおりに遺産を相続させることができます。また、家族への最後のメッセージを記すことも可能です。
  • 相続トラブルの防止:遺言書がない場合、相続人間で遺産分割のトラブルが発生することがあります。遺言書で遺言者の意思を相続人に伝えることで、トラブルを未然に防ぐことができる場合があります。
  • 家族の安心感:遺言書があることで、遺族は遺産分割に関する不安を軽減できます。遺言書が遺族にとっての安心材料となります。

遺言書の種類

ここでは遺言書の種類をご紹介します。

一般的に利用されるのは自筆証書遺言(自宅保管)自筆証書遺言(法務局保管)公正証書遺言の3種類となります。
この他に秘密証書遺言、緊急時遺言などがありますが、基本的には上記3種類の遺言を覚えておけば十分でしょう。

自筆証書遺言は、保管方法により『自宅保管』と『法務局保管』に分類されます。

1.自筆証書遺言(自宅保管)

ご自身で作成して、自宅や貸金庫などで保管しておく遺言です。今回ご紹介する遺言で一番お手軽に作成することが出来ます。

相続発生後に裁判所で遺言書の検認手続きを受ける必要があり、相続手続きに手間と時間がかかります。

また、公的なチェックが入らず一番リスクのある遺言書の方式です。弊所ではこの方式での遺言作成はお勧めしておりません。

自筆証書遺言(自宅保管)のメリット

  • 作成の手間:他の作成方法と比べ、一番お手軽に作成できる。
  • コスト:ご自身で作成するためコストは発生しません。

自筆証書遺言(自宅保管)のリスク・デメリット

  • 法的要件の不備:法的要件(遺言書の作成ルール)を満たしていないと遺言が無効となる。
  • 内容の不備:遺言書の内容が不明確な場合、解釈の違いで争いになる恐れがある。
  • 遺言作成能力の担保:遺言を作成した時点で遺言作成能力(認知症を発症していない等)があったことを担保できず、相続発生後に争いになる恐れがある。
  • 紛失・改ざん・未発見:紛失したり、相続後に発見されなかった場合、作成した遺言が無駄になってしまう。また、改ざんの恐れがある。
  • 検認手続き:相続発生後に裁判所で検認手続きを受ける必要があります。

2.自筆証書遺言(法務局保管)

ご自身で作成した遺言書を、お近くの法務局に保管してもらう方法です。
法務局に保管申請する手間はかかりますが、次に紹介する『公正証書遺言』より手軽に作成することができます。

『自宅保管』と異なり、作成した遺言書が法的要件を満たしているか、法務局がチェックしてくれます。
また、法務局で保管するため「紛失・改ざん・未発見リスク」がありません。

遺言書の内容のチェック、本人の意思能力のチェックは無いため「内容の不備」、「遺言作成能力の担保」のリスクは残ります。

自筆遺言証書の『法務局保管』は作成の手間と費用、各種リスクのバランスが良い遺言書の作成方式です。
相続人間の争いとなる恐れが無い場合や、遺言作成能力に問題が無い人が作成すのに適しています。

自筆証書遺言(法務局保管)のメリット

  • 作成の手間:『公正証書遺言』と比べ、手軽に作成できる。
  • コスト:『公正証書遺言』と比べ、ほとんどコストが掛からない。(法務局の保管申請手数料:3,900円)
  • 法的要件の不備:法務局のチェックがあり、法的要件不備による遺言書の無効のリスクがほとんど無い。
  • 紛失・改ざん・未発見:法務局で保管するため、紛失・改ざん・未発見のリスクがほとんど無い。
  • 検認手続き:相続発生後に裁判所で検認手続きを受ける必要が無く、すぐに遺言執行手続きを行える。

自筆証書遺言(法務局保管)のリスク・デメリット

  • 内容の不備:法務局では内容のチェックはありません。遺言書の内容が不明確な場合、解釈の違いで争いになる恐れがある。
  • 遺言作成能力の担保:法務局では遺言書作成能力のチェックはありません。遺言作成時に遺言作成能力があったことを担保できず、相続発生後に争いになる恐れがある。

3.公正証書遺言

遺言の内容を公証人と打ち合わせをして、公証役場にて作成する遺言書です。
法的に強固であり、自筆証書遺言にある各種リスクをほぼ排除できます。

公証人の報酬(財産の額・遺言書の内容による)が発生し、公証人との打ち合わせなど作成に手間と時間がかかります。

相続人間で争いになる恐れがある場合や相続関係が複雑な場合などは公正証書にて遺言を作成するようにしましょう。

公正証書遺言のメリット

  • 法的要件の不備:公証人が作成するため、法的要件不備による遺言書の無効のリスクがほとんど無い。
  • 内容の不備:公証人が作成するため、内容不備のリスクがほとんど無い。
  • 遺言作成能力の担保:公証人が遺言者の意思能力を確認するため、遺言作成時に遺言作成能力があったことを一定程度担保することが出来る。
  • 紛失・改ざん・未発見:公証役場で保管するため、紛失・改ざん・未発見のリスクがほとんど無い。
  • 検認手続き:相続発生後に裁判所で検認手続きを受ける必要が無く、すぐに遺言執行手続きを行える。

公正証書遺言のリスク・デメリット

  • 作成の手間:公証人との打ち合わせや公証役場へ出向く必要があり、手間と時間がかかります。
    緊急性がある場合は『とりあえず遺言』を作成しておくと良いでしょう。
  • コスト:公証人の報酬が発生します。報酬額は財産の額、遺言の内容により異なります。
『とりあえず遺言』とは?【用語解説シリーズ】

その他の遺言

  • 秘密証書遺言:遺言の内容を秘密にしたまま、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言書。
  • 危急時遺言:死亡の危機に瀕した場合に、証人3人以上の立会いのもとで口頭で行う遺言。
  • 在船者の遺言:船舶に乗船中の者が、船長または事務員1人及び証人2人以上の立会いのもとで行う遺言。
  • 船舶遭難者の遺言:船舶の遭難時に、証人2人以上の立会いのもとで行う遺言。
  • 成年被後見人の遺言:成年後見人がついている者が、医師2人以上の立会いのもとで行う遺言。医師は遺言者が遺言能力を有していることを確認します。
  • 伝染病隔離者の遺言:伝染病により隔離されている者が、警察官1人及び証人1人以上の立会いのもとで行う遺言。

遺言書の効力発生時期

遺言書は、遺言者の死亡後に効力を発揮します。遺言書があることで、遺産分割の際に遺言者の意思が尊重され、法的に有効な手続きを行うことができます。

逆に言うと、遺言者が存命中は遺言書には何も効力もありません。認知症対策などは家族信託や成年後見制度の利用を検討しましょう。

遺言書作成の手順

事前準備

  • 相続人の確認: 法定相続人を確認し、相続人間の関係を整理します。
  • 相続財産の確認: 相続の対象となる財産・債務をリストアップします。
  • 遺言内容の検討: 誰に何を相続させるかを具体的に考えます。
    • 遺留分の配慮: 法律上最低限保障されている相続人の取り分である遺留分に配慮して作成します。遺留分を侵害する場合、遺留分の支払い原資をどのように用意するか考慮します。
    • 予備的遺言の検討: 相続は想定通りの順番で発生するとは限りません。相続人が先に亡くなった場合に備えて、予備的遺言を記載することを検討しましょう。
    • 遺言執行者の指定: 遺言の内容を確実に実現するため、遺言執行者を指定しておきましょう。
    • 付言事項の検討: 遺言書には本文とは別に、付言項として家族への感謝やご自身の希望を記載することができます。付言事項には法的な効力はありません。

<非表示テキスト>遺留分解説のショート記事を作成してリンクを

遺言書の作成方法の決定・作成手続き

先に説明した『遺言書の種類』を参考にして作成する遺言書の方式を決定して遺言書を作成します。

  • 自筆証書遺言(自宅保管): 遺言者自身で作成して自宅や貸金庫などで保管します。
  • 自筆証書遺言(法務局保管): 遺言者自身で作成した遺言書を法務局に預けます。
  • 公正証書遺言: 公証人に遺言内容を確認してもらい、公証役場で作成します。

<非表示テキスト>遺言書の書き方解説記事を作成してリンクを貼る

遺言書作成の注意点

遺言書の作成ルール(法的要件)

遺言書が法的に有効となるためには、一定の要件を満たす必要があります。
要件を満たしていないと無効な遺言となってしまいます。

自筆証書遺言の場合、全文を手書きし、日付と署名を記載することが求められます。

公正証書の場合は、公証人が作成に関与しますので、要件不備となるリスクはほとんどありません。

自筆証書遺言の基本ルール

  • 全文を自書: 遺言書の全文を自書します。例外的に、財産目録は遺言者が署名・押印すれば、パソコン等で作成し、印字されたものが認められています。
  • 作成日付を自書: 作成された日が明確にわかるように自書します。「〇年〇月吉日」などの表記は認められず、無効な遺言となってしまいます。
  • 遺言者の署名・押印: 遺言書本文に遺言者が署名・押印します。財産目録がある場合、財産目録の各項目へ署名・押印します。

遺言書の変更・撤回

遺言書は、遺言者の意思によりいつでも変更・撤回することができます。

無効となる遺言書

法的要件を満たさない遺言書のなど、以下の場合は遺言書が無効となってしまいます。
専門家のアドバイスを受けることで、遺言書が無効となるリスクを減らすことができます。

無効となる遺言

  • 法的要件を満たさない遺言:自筆証書遺言の法的要件を満たさない遺言は、無効となります。
  • 15歳に達しない者がした遺言: 15歳に達しない者は遺言を残すことができません。
  • 遺言能力に欠ける人がした遺言: 認知症の方など、遺言書に記載した内容を理解できない人のした遺言。
  • 二人以上の連名で作成した遺言: 一つの遺言書に夫婦連名で作成した場合などは無効な遺言となってしまいます。
  • 公序良俗に反する遺言: 例えば「銀行強盗をしたら遺産をあげる」など、公序良俗に反する遺言は無効です。

まとめ

遺言書は、あなたの相続に関する意思や想いを残される家族へ明確に伝えるため大切な書類となります。
遺言書があることで、相続トラブルを防ぎ、家族の安心感を保つことができます。

遺言書の作成は、早めに行うことが重要です。
認知症になってしまったら遺言書の作成などの相続対策は不可能となってしまいます。
高齢者の5人に1人が認知症になると言われている時代です。
他人事と考えるには少し大きな数字だと思いませんか?
生前対策を自分事ととらえ、後回しにせず、早めに対策を講じるようにしましょう。

当事務所では遺言書の作成を始め、生前対策・認知症対策をサポートしております。
法的に有効な遺言書を作成するのはもちろんのこと、潜在的な問題を発見したり、家族信託・任意後見など他の制度を比較検討してより良い提案をさせて頂いております。

初回相談は無料となっております。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

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