遺言書を作成して相続手続きをスムーズに進め、家族間の相続トラブルを防ぎたいと考えている方も多いでしょう。
しかし、遺言書を作成する際に見落としがちな「遺留分」という法律上の権利を理解していないと、思わぬトラブルが発生する可能性があります。
本記事では、遺留分の基本的な知識から、トラブルを防ぐための具体的な対策までを詳しく解説します。
これを読めば、遺言書作成に向けた一歩を踏み出し、家族の絆を守るための準備が整います。
遺留分についての理解を深め、安心できる遺言書を作成して相続の準備を進めていきましょう。
遺言書作成の際に気をつけるべき「遺留分」とは?
遺言書を作成する際に重要なのが、「遺留分」という概念です。
遺留分とは、民法によって定められた法定相続人に対する最低限の取り分のことです。
たとえ遺言書で「全財産を特定の人物に渡す」と記載されていても、法定相続人には一定の財産に対する権利が保障されています。これにより、相続人間の著しい不平等が防がれる仕組みとなっています。
遺留分は、主に配偶者・子ども・父母といった法定相続人に認められています。なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。
具体的には、配偶者と子どもがいる場合、それぞれの法定相続分の半分が遺留分として請求する権利が与えられています。
この権利は、遺言書の内容にかかわらず他の相続人に対して請求できるため、遺留分を考慮せずに遺言書を作成すると、後に相続トラブルが発生するリスクがあります。
遺留分を無視した場合のリスクとは?
遺留分を無視した遺言書の作成は、相続人間のトラブルの原因となります。
たとえば、「全財産を長男に渡したい」と遺言しても、他の相続人には遺留分を主張する権利があります。その結果、遺留分を巡る訴訟に発展するケースも少なくありません。実際に、裁判で争いが続き、家族関係が破綻する事例もあります。
このようなトラブルを避けるためには、遺留分の存在を理解し、それを考慮に入れた遺言書作成が不可欠です。遺留分を巡る問題は、予期せぬ法的コストや時間の浪費を招くだけでなく、家族の絆にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
遺留分を考慮した遺言書の作成方法とは?
遺言書作成時に遺留分を考慮する方法として、まず遺留分を侵害しない範囲で財産を分けることが基本となります。たとえば、推定相続人が妻、長男、長女の場合、それぞれの法定相続分、遺留分は以下の通りとなります。
法定相続分 | 遺留分 | |
妻 | 2分の1 | 4分の1 |
長男 | 4分の1 | 8分の1 |
長女 | 4分の1 | 8分の1 |
このケースで長男に多く財産を残したいと考えている場合、遺留分を侵害しないよう配慮して以下の割合で相続させることで遺留分請求によるトラブルを避けることが出来ます。
遺留分を考慮した遺言書で指定する相続分 | |
妻 | 4分の1 |
長男 | 8分の5 |
長女 | 8分の1 |
また、どうしても遺留分を侵害する範囲まで特定の相続人に多くの財産を残したい場合には、他の相続人に事前に説明し、理解を得る努力が必要です。
さらに、遺留分を侵害する相続人に対する補償として、生命保険を活用する方法もあります。
これにより、財産を多くもらう相続人の金銭的負担を軽減し、遺言者の意向を最大限に反映させることが可能になります。
遺留分に関する家族間のトラブルを防ぐための具体的な対策
遺留分を巡るトラブルを未然に防ぐためには、以下の方法が考えられます。
1.遺留分に配慮した遺言書を作成する
他の相続人の遺留分を侵害しないように配慮して遺言書を作成する方法です。
遺留分を侵害していないため、相続発生後に遺留分問題が発生することはありません。
ただし、この方法ではすべての財産を特定の相続人に渡すことはできません。
2.家族に遺留分を侵害する遺言書を作成した理由を説明して理解を得ておく
なぜ遺留分を侵害する内容の遺言書を作成したのか、その理由を家族に説明して理解を得ておきましょう。
家族関係が良好で、遺留分を侵害することに合理的な理由があれば、納得してもらいやすくなります。
ただし、この方法では他の相続人の気持ち次第で、遺留分請求をされる恐れがあることに注意が必要です。
3.生命保険を活用して遺留分請求に備える
特定の相続人を受取人とする生命保険を準備しておくことで、他の相続人から遺留分を請求された際の支払いの原資とすることができます。生命保険の受取人が指定されている場合、その金額は相続財産には含まれません(※ただし相続税の計算対象にはなります)。これにより、遺留分の支払い請求に備えることが可能です。
まとめ
遺言書を作成する際には、「遺留分」を考慮することが極めて重要です。
遺留分を無視した遺言書は、後々、家族間のトラブルや法的な争いを招くリスクが高まります。
本記事で紹介したように、遺留分を侵害しないように遺言書を作成したり、事前に家族へ説明して理解を得るなどの対策が有効です。
また、遺留分支払いのための原資として生命保険を活用する方法も、遺留分問題を解決する手段の一つです。
これらの方法を組み合わせることで、家族の絆を守りつつ、遺言者の意向を尊重した相続が実現できます。
遺言書を作成する前に、遺留分の重要性を十分に理解し、適切な対策を講じることが、将来の相続トラブルを防ぐ鍵となります。
参照条文
民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
民法第1046条(遺留分侵害額の請求)
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額